訴訟を起こしにくいケースとは
このサイトは弁護士法人ALG&Associatesをスポンサーとして、Zenken株式会社が運営しています。
がんの見落としがあっても裁判を起こせない?
もしがんを見落とされたら、患者さんは医療機関に怒りや不信感を募らせ、訴えを起こすことを考えるのも無理はありません。
しかし、裁判では相手方の過失を原告側が立証することが基本です。
がんの見落としと治療が遅れたことなどの因果関係が認められにくかったり、注意義務違反(過失)を立証しにくかったりするケースでは訴訟を起こすのは難しいと考えられます。
がんのタイプや治療方法の問題
がんの種類によって進行のスピードは異なり、比較的進行が遅い前立腺がんや乳がん、進行が速い肺小細胞がんなどさまざまです。もちろん治療の有効性も千差万別で、たとえば早期の肺腺がんは手術の治療成績が良好のため、見落としとの因果関係が認められやすい傾向があります。
一方、希少がん(発生頻度が低く、症例が少ないがん)では見落としの影響を立証するデータが乏しく、因果関係が認められないケースも多くなります。
見落とされた期間の問題
がんを見落とされてから発見されるまでの期間が長いと、それだけ病状も進行するので因果関係が認められやすくなります。逆に言うと、見落とされていた期間が短いほど因果関係の立証は困難だということです。
もちろんがんの種類によって進行のスピードが異なるため一概には言えませんが、過去の裁判例を踏まえると、見落とされていた期間が半年に満たない場合は因果関係が認められない傾向にあるようです。
他の診療科での見落としの問題
たとえば、がんとは無関係の整形外科受診の際に撮影したレントゲンに肺がんが写っていて、それを医師が指摘しなかった、という場合ではどうでしょうか。このように他の診療科でのがんの見落としが問題になるケースもあります。
この場合は、がんに対する医療水準をどう捉えるかが問題です。医療水準を前提にした場合にがんを指摘することが困難であれば、因果関係の立証は困難だといえるでしょう。
因果関係の立証が困難な実例
ここでひとつ、訴訟を起こせなかった実例をみてみましょう。
ある病院で子宮頸がん検診を受け、異常なしといわれた患者さん。翌年に別の病院で検診を受けたところ、子宮頸がんのステージⅠ期で広汎性子宮全摘出術が必要だと診断されてしまったのです。担当医の見解は「数年前からがんがあったと思われる」とのことでした。このケースでは、前医の責任を問えるでしょうか。
ここで問題なのは、がんのステージです。Ⅰ期であれば「数年前からがんがあった」「手術を要する」とは考えにくいと思われます。
つまり、昨年の検診以降にがん化した可能性が高いのです。仮に昨年の検診時にがんだったとしても、患者さんが不調を訴えたのか、細胞診が行なわれたのか、担当医ががんを疑うべき情報を得ていたかどうかも問題になるのです。
まして集団検診であれば、担当医が多くの患者さんのデータをチェックして即断するので、問診の結果や全身症状からがんを疑う余裕はありません。集団検診における医師の注意義務は決して高くないのです。
個別検診であればともかく、このケースでは見落としや誤診を主張して責任を追及するのはかなり困難だといえるでしょう。
がん見落としへの高い専門性と医療裁判の豊富な実績を持つ弁護士
弁護士法人ALG&Associatesの代表執行役員、東京弁護士会所属。医学博士の学位を保有しており、代表職の傍ら、医療過誤チームを牽引。さらに大学院の医学研究科に在籍し医学の研究を行っています。肺がん、胃がん(スキルス含む)、大腸がん、乳がん等の診断ミスに関する実績を有し、医療訴訟に関する書籍や論文も発表しています。