【肺がん】放射線読影医の指摘を放置・損害賠償

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目次

本事例は、下記サイトの情報を参照しています。

※参照元:民間医局(株式会社メディカル・プリンシプル社運営)「医療過誤判例集」
https://www.doctor-agent.com/service/medical-malpractice-Law-reports/2023/vol239

事例の要点と結果

放射線医の指摘を放置したため肺がんの診断が遅れる

患者さんは健康診断で肺機能の低下を指摘され、相手方病院の呼吸器内科を受診しました。その後も咳が止まらず同院を受診し続けましたが、担当医は胸部CT検査による経過観察を続けます。

放射線読影医は2回にわたって気管支鏡検査(※1)を推奨するほか、肺の影が大きくなっていることも指摘しているにも関わらず、担当医は感染リスクを考慮して気管支鏡検査を行いませんでした。

結局、肺がんが診断されるまで担当医の診察は13回、実に約1年1カ月を要したのです。患者さんは後医による手術と放射線治療を受けることになりました。

本案件は診断・治療の遅れによって肺がんが進行し、手術後の5年生存率が低下したとして、相手方病院と担当医に慰謝料を含む200万円の損害賠償が命じられています。

経緯

裁判所は気管支鏡検査を実施すべきだったと判断

撮影された胸部CT画像では異常な影が認められ、原則として肺がんの確定診断を行なうべき大きさでした。そして担当医も患者さんの咳症状も踏まえて肺がんの可能性を想定していました。

喀痰細胞診で診断がつかない場合は気管支鏡検査を行なう旨を、実際に患者さんにも説明していたのです。それが実施されなかったことに対して、患者側は担当医の注意義務違反を主張しました。

相手方病院は、患者さんが抗血小板薬による治療を受けているため入院で検査を受けなければリスクが高いところ、患者さんが忙しくて入院できなかったと主張します。

このほか、結核の可能性があることから感染リスクがあったこと、肺の影が小さく気管支鏡での精査が難しいこと、気管支鏡検査の合併症のリスクが高いことなども主張しました。

これに対して裁判所は、患者さんの都合で入院できないかどうかは検査の必要性について説明を受けた上で患者さん自身が判断すべきことであり、医師が判断すべきことではないとしました。結核の感染リスクについても対策が可能であること、気管支鏡での精査が困難であることやリスクが高いことを考慮しても検査適応は否定されないとしています。

相手方病院は、気管支鏡検査を実施しなかったことが患者さんの5年生存率が低下することを具体的に予見することはできないとも主張しました。

これに対しても裁判所は、検査を実施しなかったことによる発見の遅れは病期の進行につながり、予後が悪化して5年生存率も低下し得るので具体的な予見は可能で、相手方病院に結果予見義務及び結果回避義務(※2)があるとしました。

争点

実際に5年生存率は低下したのか

大きな争点は、実際に患者さんの5年生存率が低下したかどうかですが、裁判所は本事例では過失がなければステージⅡの段階で手術を受けることができたとしています。

データ上、肺がんと診断された患者さんと同年代、同性、同ステージのケースで手術を受けた場合の5年生存率は70.4%、これがステージⅢになると49.7%に低下することから、本事例の肺がんの診断が約1年1カ月遅れたことで5年生存率は20.7%低下したと認められたのです。

用語解説
  • (※1)気管支鏡検査
    肺や気管支の状態を見るための内視鏡検査です。一般的な胃カメラよりも細いカメラを挿入し、外部のモニターで気管支の中を見ることができます。
  • (※2)結果予見義務・結果回避義務
    特定の出来事が発生することを注意して予見する必要性を結果予見義務、特定の出来事が発生しないように注意する必要性を結果回避義務といいます。
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弁護士/医学博士・金﨑氏について

がん見落としへの高い専門性と医療裁判の豊富な実績を持つ弁護士

弁護士法人ALG&Associatesの代表執行役員、東京弁護士会所属。医学博士の学位を保有しており、代表職の傍ら、医療過誤チームを牽引。さらに大学院の医学研究科に在籍し医学の研究を行っています。肺がん、胃がん(スキルス含む)、大腸がん、乳がん等の診断ミスに関する実績を有し、医療訴訟に関する書籍や論文も発表しています。

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