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【肺がん】経過観察による治療の遅れ・訴訟上の和解

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目次

本事例は、下記サイトの情報を参照しています。

※参照元:【本メディア監修】弁護士法人ALG&Associates「癌(がん)・その他の腫瘍の医療過誤 解決事例一覧」
https://www.avance-lg.com/customer_contents/iryou/jirei/gan/gan_jirei06/

事例の要点と結果

経過観察によって治療開始が遅れた肺がんの事例

患者さんは健康診断で肺がんが疑われたためCT撮影による精密検査を受け、右の肺に最大4cm大の腫瘤陰影が見つかりました。

担当医は肺炎と鑑別するため経過観察としましたが、2カ月後のレントゲン撮影では陰影が小さくなっていなかったため、気管支鏡検査(※1)を薦めます。ところが患者さんは親族の結婚式を控えていたため、検査の先延ばしを希望、担当医も再び経過観察としました。

さらに2カ月後、陰影が大きくなったため気管支鏡検査が実施されましたが、悪性所見は得られず、結局また経過観察となります。そしてもう2カ月後、患者さんの容態は急変し、全身の精密検査の結果、骨転移を伴う低分化(※2)の肺腺がん(※3)と診断されたのです。

患者さんは化学療法を受けましたが状態は好転せず、約4カ月後に亡くなりました。ご遺族は初回の精密検査で4cm大の陰影が見つかっているにも関わらず、担当医が必要な検査を怠って経過観察を繰り返した結果、確定診断が遅れて適切な治療を受ける機会を失ったために死亡したとして病院を提訴しました。

本事例は被告が原告に2,000万円を支払う内容の和解が成立しています。

経緯

双方の主張がぶつかりカンファレンス鑑定に突入

本事例は、協力医の意見書の内容から勝訴の見込みが高いと考えられたため提訴に至りましたが、過失論・因果関係論ともに激しくぶつかり、カンファレンス鑑定に突入しています。

具体的には、肺炎との鑑別を理由に経過観察にしたことが過失にあたるか、気管支鏡検査で悪性所見が得られなかったことを理由に経過観察にしたことが過失にあたるか、患者さんが親族の結婚式を理由に検査の延期を希望したことが検査拒否にあたるかどうかが争われました。

因果関係についても、相手方は肺腺がんのダブリングタイム(※4)を根拠として、初診の時点ですでに骨転移を生じていた可能性があるため適切な検査や治療を行なっても予後は変わらなかった可能性があると主張してきました。

対して患者側は、最大径3cmを超える腫瘤陰影の90%は悪性という医学的知見を根拠とし、経過観察は適切ではないと反論します。気管支鏡検査も検体を的確に採取することが難しい部位のため、他の検査を実施すべきだったとし、検査拒否の問題については検査そのものを見送って経過観察にすることは正当化できないと主張しました。

カンファレンス鑑定の結果、遅くても結婚式の直後には気管支鏡検査を実施すべき、それで悪性所見が認められなければ速やかに他の検査を実施すべきだったという意見が得られました。因果関係についても、ダブリングタイムを考慮すると骨転移が起こった時期を推定することは困難という点で鑑定人の意見は一致しました。

この内容は概ね患者側に有利なものとなりましたが、結婚式直後の患者さんの状態について情報が足りず、病状の進行の度合いを推定できません。したがって、意見書は肺がんのステージごとに分類して予後を想定する内容にとどまったのです。

裁判所は因果関係についてかなり疑問を抱いていたようですが、幸いにして相手方が患者側に2,000万円を支払うという内容の和解が成立しました。

争点

情報不足で患者さんが不利益を被ってはいけない

肺がんに限ったことではありませんが、見落としや適切な検査を実施しなかったという事例では全身の精密検査が行われていないため、過失が起きた時点でのステージを確定できません。本事例も胸部のレントゲン検査で経過観察を行なっていただけなので、リンパ節転移の有無も骨転移以外の遠隔転移の有無も不明です。縦隔リンパ節転移を起こすと一般的に予後は不良とされていますが、その情報がないことが特に大きな問題でした。

しかし、こうした情報の不足はそもそも担当医が適切な検査を怠ったことが原因であり、その不利益を患者さんが被るのは不合理かつ不公平です。そこで患者側は最高裁判例に基づき、情報の不足を理由として患者側に不利益な判断をすべきではないと主張しました。そして裁判長は「力のこもった準備書面を拝見しました。裁判所としては2,000万円での和解を提案します。この類の事例では破格の金額です」と言ってくれたのです。

用語解説
  • (※1)気管支鏡検査
    肺や気管支の状態を見るための内視鏡検査です。一般的な胃カメラよりも細いカメラを挿入し、外部のモニターで気管支の中を見ることができます。
  • (※2)低分化(がん)
    がん細胞が正常な細胞の形態をどのくらい維持しているかを計る指標を「分化度」といい、分化度が低いほど悪性度が高く、活発に増殖するとされています。
  • (※3)肺腺がん
    肺がんの中でも最も発生頻度の高いタイプで、肺がん全体の約半数を占めるといわれています。肺の奥の細かく枝分かれした部分に発生するため、初期は症状がみられないことが大きな特徴です。
  • (※4)ダブリングタイム
    がんの増殖スピードを示す数字です。がん細胞は分裂して増殖しますが、その体積が2倍になる(ダブリング)のに必要な時間(タイム)を表しています。ダブリングタイムが短ければ、増殖スピードも速いということです。
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弁護士/医学博士・金﨑氏について

がん見落としへの高い専門性と医療裁判の豊富な実績を持つ弁護士

弁護士法人ALG&Associatesの代表執行役員、東京弁護士会所属。医学博士の学位を保有しており、代表職の傍ら、医療過誤チームを牽引。さらに大学院の医学研究科に在籍し医学の研究を行っています。肺がん、胃がん(スキルス含む)、大腸がん、乳がん等の診断ミスに関する実績を有し、医療訴訟に関する書籍や論文も発表しています。

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