【胃がん】人間ドックでの見落とし・請求棄却となった事例
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本事例は、下記サイトの情報を参照しています。
※参照元:民間医局(株式会社メディカル・プリンシプル社運営)「医療過誤判例集」
https://www.doctor-agent.com/service/medical-malpractice-Law-reports/2022/vol225
事例の要点と結果
人間ドックで胃がんを見落とされた事例
患者さんは某医療機関で毎年定期的に日帰り人間ドックを受診していました。ところが3年目の受診後に受けた精密検査で胃がんが発見されたのです。
患者さんの相続人は、医療機関が1年目ないし2年目の受診時に精密検査を実施もしくは勧奨しなかった過失があると考え、損害賠償請求を提起しました。裁判の結果、本事例は棄却されています。
経緯
人間ドックに求められる医療水準とは
患者側は、1年目の検査では強度の萎縮性胃炎(※1)が認められており、2年目の検査ではそれが悪化、未分化型早期胃がん(※2)と一致する所見もあることから読影には特に注意しなければならず、早期胃がんを疑わせる所見は認識できたはずと主張します。
そして仮に認識できないとしても、周囲の粘膜と異なる異常所見がある以上は良性だと積極的に診断する根拠がなく、相手方には精密検査を実施もしくは勧奨する義務があったとしました。
これに対して裁判所は、前提として人間ドックは症状の自覚のない健常人を対象に病気の早期発見・予防を目的として行なわれるものであり、診断を確定することが求められているのではなく、結果を手がかりとして精密検査を実施して診断を確定していくことが予定されているものと認定します。
それに照らすと、胃がんの有無を精査すべき異常所見がみられる場合はそれを実施または勧奨すべき注意義務があるが、それは当時の医療水準や医療機関の特性などの事情を考慮して判断されるべきとしました。
一方、人間ドックは一般的な集団健康診断に比べると高い水準の読影が期待されるものの、本事例の人間ドックはがんに限らずさまざまな病気の発見・予防を目的としたものであり、がん専門医療機関における読影と同等水準以上の高度な注意義務を負うものではないとされました。
その上で、患者側が指摘する異常所見は人間ドックに求められる医療水準では指摘が容易ではないこと、当時の研究では萎縮性胃炎が高確率で胃がんを発症する知見が確立されていないことから、相手方の過失は否定されたのです。
争点
健康診断は特定の病気にかかっていることを前提としていない
人間ドックは病気の早期発見と適切な治療を促すアドバイスが主な目的であり、実施する医療機関は当時の医療水準に沿った検査方法を選択し、病気の兆しを的確に判断して受診者に告知、もし異常があれば治療方法や生活上の注意点を的確に伝える義務を有していると言えます。
そして、基本的に人間ドックをはじめとする健康診断は、特定の病気にかかっていることを前提としていません。きわめて短時間で全身の検査を集中的に行なうため、そこでがんの見落としがあっても、必ず病院側に何らかの注意義務違反(※3)があるとは限らないのです。
- 用語解説
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- (※1)萎縮性胃炎
長い間、胃の粘膜に炎症が起こる慢性的な胃炎の症状によって、胃液や胃酸などを分泌する組織が縮小して、胃粘膜が萎縮した状態を言います。 - (※2)未分化型早期胃がん
がん細胞が胃の壁にバラバラと浸み込むように広がっていくものが多く、一般的に未分化型(低分化型)のがんは進行スピードが速いといわれています。未分化型にスキルス胃がんが多いと言われています。早期はがんが粘膜層または粘膜下層にとどまっている状態です。 - (※3)注意義務違反
医師の過失を注意義務違反といいます。どのような注意義務があったかは患者側、つまり原告が設定し、具体的に違反を主張・立証しなければなりません。
- (※1)萎縮性胃炎

がん見落としへの高い専門性と医療裁判の豊富な実績を持つ弁護士
弁護士法人ALG&Associatesの代表執行役員、東京弁護士会所属。医学博士の学位を保有しており、代表職の傍ら、医療過誤チームを牽引。さらに大学院の医学研究科に在籍し医学の研究を行っています。肺がん、胃がん(スキルス含む)、大腸がん、乳がん等の診断ミスに関する実績を有し、医療訴訟に関する書籍や論文も発表しています。

