【大腸がん】大学病院のX線検査での見落とし・慰謝料
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本事例は、下記サイトの情報を参照しています。
※参照元:民間医局(株式会社メディカル・プリンシプル社運営)「医療過誤判例集」
https://www.doctor-agent.com/service/medical-malpractice-Law-reports/2005/Vol033
事例の要点と結果
大腸がんを見落とされて亡くなった患者さん
患者さんは某財団法人の検査機関で大腸がん検診を受けたところ、便潜血反応が陽性だったため、専門医療機関で至急精密検査を受けるように指示されました。
その後患者さんは大学病院に精密検査を依頼、大腸X線検査と血中腫瘍マーカー(※1)検査、肝機能血液検査を受けましたが、異常なしと診断されています。
しかし患者さんは翌年の初めから体調の悪化を自覚し、ほどなく激しい腹痛を訴えて某病院に入院、大腸から肝臓へのがん転移が発見されたのです。患者さんに助かる見込みはなく、約1か月後に39歳という若さで亡くなってしまいました。
ご遺族は異常なしと診断した大学病院に過失があるとし、診療契約上の債務不履行及び不法行為(※2)に基づく損害賠償請求を起こしました。本事例は最終的に300万円の慰謝料が認められています。
経緯
原審で棄却されるも控訴審で慰謝料が認められる
患者側は相手方病院に対し、X線画像に病変が写っているのに見落とした過失、適切かつ有効なX線検査を実施しなかったことによって病変を見落とした過失、異常所見があるにも関わらず再検査や内視鏡検査を行なわずに異常なしと診断した過失があると主張します。
それに対して相手方は、X線画像の影は異常なものではない、診断に不適切なところはないとするほか、患者さんは低分化腺がんで実際に体調不良から約2カ月で死亡するほど進行が早く、その特性から大学病院での精密検査後に発症したと考えられ、死亡との因果関係はないと主張しました。
そして原審では患者側の請求が棄却されます。確かにX線写真に異常所見がある以上は再検査の必要性があったとされましたが、患者さんの死亡との因果関係の立証が不十分というのがその理由です。
患者側は控訴し、前述の因果関係を争うとともに、仮に因果関係がなくても患者さんは適切な治療を受ける機会と可能性を奪われたと主張しました。
裁判所は原審と同様に再検査の必要性を認めたほか、低分化腺がんは進行が早いという特性を考慮しても、精密検査後から体調不良に至るまでの短期間に延命が不可能なほど進行するがんであるという証拠がないとしました。
また、再検査を行なえばがんを発見できた可能性は少なくないこと、そこでがんが発見されれば、低分化腺がんだとしても意義のある期間の延命を期待できたと認められたのです。
したがって、相手方病院が異常なしと判断して再検査を行なわなかったことが診療契約上の義務違反に相当する不適切な診療行為となり、死亡にも相当の因果関係があるとされたため損害賠償の義務があると結論づけられました。
ただし、大腸の低分化腺がんは早期発見がほとんどなく予後も不良のため、不適切な診療行為があっても延命期間や延命中の生活の質に影響したかどうかを推定するのは困難とされ、逸失利益は認められず慰謝料の支払いのみにとどまっています。
争点
高度な医療機関には高度な注意義務がある
本事例では患者さんが便潜血陽性によって専門医療機関での至急の精密検査を指示されており、原因の特定と適切な治療を求めて医療機関を選択しているので、当然ながら相手方大学病院には高度な注意義務が課せられていると考えるべきです。
そもそも大学病院の医療水準は高く、患者さんの期待も高いので、他の医療機関よりもさらに高度な注意義務が存在するはずです。
たとえ大学病院ではなくても、異常が認められた場合は直ちに患者さんに説明し、確定診断が困難な場合は他の専門医療機関で確定診断を受けるよう指示する注意義務があることを心得ておかなければなりません。
- 用語解説
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- (※1)血中腫瘍マーカー
がん細胞やがん細胞に反応した細胞が生成する特徴的なたんぱく質の総称です。他の検査と合わせて、がんの診断の補助や経過、治療効果を把握するために調べられます。 - (※2)診療契約上の債務不履行及び不法行為
医師と患者さんとの間の診療契約に反して義務を果たさず、患者さんに損害を与えてしまうことを債務不履行といいます。また、故意または過失によって患者さんの権利や利益を侵害することを不法行為といいます。
- (※1)血中腫瘍マーカー

がん見落としへの高い専門性と医療裁判の豊富な実績を持つ弁護士
弁護士法人ALG&Associatesの代表執行役員、東京弁護士会所属。医学博士の学位を保有しており、代表職の傍ら、医療過誤チームを牽引。さらに大学院の医学研究科に在籍し医学の研究を行っています。肺がん、胃がん(スキルス含む)、大腸がん、乳がん等の診断ミスに関する実績を有し、医療訴訟に関する書籍や論文も発表しています。

