【胃がん】かかりつけ医での検診結果通知の遅れ・損害賠償
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本事例は、下記サイトの情報を参照しています。
※参照元:民間医局(株式会社メディカル・プリンシプル社運営)「医療過誤判例集」
https://www.doctor-agent.com/service/medical-malpractice-Law-reports/2019/Vol200
事例の要点と結果
検診の結果を患者さんに知らせなかった担当医
患者さんは年1回、かかりつけのクリニックで個別の胃がん検診を受けていました。ある年の検診で胃の一部に病変が認められ、医師会の読影委員会による二次読影でも要精密検査と診断されます。担当医はその結果を把握するも患者さんには連絡せず、患者さんが自ら受診した際に病変が見つかったことを伝えました。
検診から約2カ月後に胃カメラが実施され、病理検査(※1)の結果、胃がんと診断されます。患者さんは総合病院を紹介されて手術を受けますが、翌年には肝臓に転移、それが原因で亡くなってしまいました。
担当医が検診の二次読影の結果を知ってから患者さんに伝えるまでに1カ月が経過していますが、裁判所はその遅れが注意義務違反(※2)に相当すると認定しました。ただし、速やかに通知・指導していたとしても死亡は避けられなかった可能性が高いとされ、賠償額は220万円にとどまっています。
経緯
担当医は結果を速やかに通知・指導すべき
当該自治体の胃がん検診では、個別検診で担当医が異常を発見して精密検査を要すると判断した場合、速やかに患者さんに通知するとともに、胃がん精密検査依頼書を交付して医療機関で精密検査を受けるよう指導すべきとされています。
実際に検診のX線画像では明らかな病変が認められ、前年までのX線写真と比較して急激に変化しており、胃がんが疑われることは鑑定人それぞれの意見が一致しました。
実際に担当医もX線写真で病変を認め、要精密検査と診断しています。医師会の二次読影による同じ所見も得ていました。したがって、少なくとも胃がん検診の仕組みのもとではこの事実を速やかに患者さんに通知し、精密検査を受診するように指導すべきです。
まして担当医は患者さんのかかりつけであり、連絡先なども把握しているので、速やかに通知することに何の障害もありません。注意義務違反があったと認められても当然といえるでしょう。
争点
法律上の義務として速やかな通知・指導が求められる
相手方は、一般的に検診の受診者に対しては2週間後に二次読影の結果が出ることを説明し、その頃の再受診を指示する以上に個々の受診者に対する通知や連絡を取るべき法的な注意義務はないと主張しました。
しかし、裁判所は本事例が明らかに胃がんを疑う所見だったこと、患者さんがかかりつけである担当医にがんの早期発見を強く期待しているのを担当医自らも認識していたことを考慮すると、診断結果を速やかに通知・指導したとはいえないとして、相手側の主張を退けています。
本事例では個別の事情が考慮されており、通知や指導が1カ月遅れることで直ちに損害賠償責任が認められるとは限りません。ただし、事情によっては法律上の義務として、速やかな通知や指導が求められるということです。
- 用語解説
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- (※1)病理検査
生検で採取された組織の一部を顕微鏡で詳しく調べる検査です。がんを疑う場合は、細胞の形態や悪性度などを病理医が厳密に調べて診断します。 - (※2)注意義務違反
医師の過失を注意義務違反といいます。どのような注意義務があったかは患者側、つまり原告が設定し、具体的に違反を主張・立証しなければなりません。
- (※1)病理検査

がん見落としへの高い専門性と医療裁判の豊富な実績を持つ弁護士
弁護士法人ALG&Associatesの代表執行役員、東京弁護士会所属。医学博士の学位を保有しており、代表職の傍ら、医療過誤チームを牽引。さらに大学院の医学研究科に在籍し医学の研究を行っています。肺がん、胃がん(スキルス含む)、大腸がん、乳がん等の診断ミスに関する実績を有し、医療訴訟に関する書籍や論文も発表しています。

