医師の過失や損害賠償請求が認められるポイント
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医師の過失の有無を判断するポイント

がんの見落としの事件においては、どのような環境で検査を受けたかが過失の有無に影響することがあります。
例えば、定期健康診断や集団健診においては、その目的が多数の人を対象にして「異常の有無を確認」するために行われるものであって、大量のX線写真の読影を短時間で行う必要があるため、医師の注意義務の程度には限界があるという趣旨の裁判例があります(東京高判平成10年2月26日判タ1016号192頁)。
現実に行われている定期健康診断において、その内容や設備、携わっている医師の知識や経験は同じではありません。それぞれの医療機関に対する期待の高さも違ってくるはずです。
健康診断における医師の注意義務違反や過失の有無を判断する場合、健診を行った医療機関において合理的に期待される医療水準に照らして、現実に行われた医療行為がそれに適ったものであるかどうかが問題になります。
合理的な標準や期待されるレベルは、同じ専門分野の同僚医師が同様の状況でどのように行動するかを基準にします。
「がんの見落とし」が訴訟の対象になった場合、医師の行動が一般的な医療水準に合致していたかどうかが議論の焦点となり、証拠や専門家の意見、業界の慣行などさまざまな要素に基づいて、医療行為の適切さや医師の責任を評価します。
過失が認められた事例
では、実際に医師の過失が認められた事例を紹介しましょう。
胆石手術前のX線写真に写っていた悪性リンパ腫の影
胆石の手術を受けた患者さんが1年後に健康診断を受けたところ、巨大な悪性リンパ腫が発見されました。手術を受けるも経過は思わしくなく、患者さんは亡くなります。この悪性リンパ腫は胆石の手術前から存在していた疑いが強く、実際に胆石手術前のX線写真にも大きな腫瘤陰影が写っていたのです。
このケースにおいて問題となったX線検査は、実際は胆石手術前の状態を評価するために行なわれた検査であって、悪性リンパ腫を見つけるためではありません。検査の目的によって、異常を発見できるかどうかは大きく左右されるのです。
しかし、手術前のX線写真に写っていたのは最大径が約10cmにも及ぶ大きな腫瘤陰影だったのです。ごく小さながんを見落とすのとは事情が異なります。この事例は医師の過失が認められ、最終的には訴訟上の和解が成立しています。
しこりが大きくなっていたのに放置された乳がん
乳房のしこりを訴えた患者さんが病院を受診したところ、検査で1cm大の腫瘤が認められました。2回目の検査では腫瘤が大きくなっていたのに担当医は再診を指示せず、2年後になって乳がんと診断、患者さんは両側の乳房を切除することになってしまいました。
このケースの乳がんは進行が速い反面、薬物治療の効果が高く予後も良好なタイプでした。したがって、1年前に乳がんと診断されていれば早期の治療が可能で、乳房を温存することも可能だったと考えられました。この事例も医師の過失が認められ、最終的には和解に至って慰謝料の支払いが命じられています。
過失と損害額の関係
がんの見落としの訴訟は、たとえ医師の過失が明らかであっても、前述のとおりさまざまなポイントがあるため、状況次第では損害額の算定が難しいことが少なくありません。そこで、弁護士がひとつの戦略として和解を提案し、早期かつ患者側に有利な解決を目指すこともあります。
医師の過失が認められるか否かには、弁護士選びも重要なポイントになります。がんの見落としを疑う場合は、早めに弁護士に相談するのが望ましいといえます。

がん見落としへの高い専門性と医療裁判の豊富な実績を持つ弁護士
弁護士法人ALG&Associatesの代表執行役員、東京弁護士会所属。医学博士の学位を保有しており、代表職の傍ら、医療過誤チームを牽引。さらに大学院の医学研究科に在籍し医学の研究を行っています。肺がん、胃がん(スキルス含む)、大腸がん、乳がん等の診断ミスに関する実績を有し、医療訴訟に関する書籍や論文も発表しています。

